今では少なくなりましたが、子だくさんで仲の良さそうな家族を街で見かけると、つい笑顔になってしまう私。
「ご両親、いつまでも元気で頑張って!」と、いつも心の中でエールを送っています。
賑やかな子供の声が日々の活力だと、
目を細めながら語るご両親とお話ししていると、こちらまで元気をもらえるものです。
しかしその裏で、
子だくさんでも幸せそうに見えず、いつも暗い顔で辛さや苦しさを訴えている方も確実にいらっしゃいます。
今回のテーマは「多産DV」です。
出産させ続けることで妻を支配する夫と、そんな夫から逃げられずメンタルを破壊される妻のお話しです。
■幸せな子だくさんと不幸な子だくさん
TVの大家族スペシャルを目にすると、まず、子だくさんの度合いが過ぎることに驚愕します。
微笑ましいと感じるよりも先に
「短い間隔で子供を産んで母親の体調は大丈夫なのか?」が先に立ってしまうのです。
正直、子供はひとりでも大変です。
それをほぼ年子で10人overを育てるなど、ちょっと尋常ではないと思いませんか?
両親の人生は、ほぼ子供に捧げることになるでしょう。
もちろんそれが幸せだと感じる親もいるでしょうから、それを頭から否定するつもりはありません。
しかし、大家族スペシャルに登場する家族の多くが、
その後の調査で暗い過去が発覚していることもまた事実です。
経済的にはもちろんのこと、妻の体調を考えると、かなり酷な状況であることは容易に想像がつきます。
その裏側で、夫婦間に支配と隷属関係が存在しているとなると、
これは単なる子だくさんで流せる問題では無くなるでしょう。
近年よく聞かれるようになった「多産DV」というワード。
これは夫婦間におけるDVの一種です。
端的に言うと、避妊を拒否して強制的に妊娠させ、出産を繰り返すことで、妻を支配し束縛するというもの。
多産のすべてがそうではありませんが、
嫌がる妻に強制させる夫という図式があれば、まずDVを疑うべきでしょう。
辛いと思いながらも、それがDVだと気が付いていない妻が多くいることも事実です。
これは人権問題として憂慮すべきと思います。
それでは次に、カウンセリングで実際にお話しを聞いた、多産DVの実態をご紹介します。
■妻は夫の性欲を晴らすもの
婚活パーティーで知り合い結婚した夫婦。
夫はそれまで恋愛経験がなく、やっと結婚できたことを喜んでいました。
妻は過去に辛い恋愛経験があり、それを忘れるために婚活をして、結婚を急いだとのこと。
両者の思惑は一致していたため、とんとん拍子に話が進み、結婚式の前に子供を授かります。
妊娠からしばらくして、妻は自身の辛い過去について、夫に打ち明ける機会がありました。
それは夫から、過去であっても隠し事は止めてほしいと言われたことがきっかけです。
自分から打ち明けてほしいと言った夫でしたが、実際は妻の告白にショックを受けてしまいました。
それからの夫は、それまでにないくらい、妻への束縛が強くなりました。
妻が一人で外出することを嫌がったり、夫無しで友人に会うことを許さなかったり。
妊娠中にもかかわらず、妊娠後期まで頻繁にセックスを求めてくるようになったのです。
妻は体調的にも応じることが辛かったのですが、
それを断ってしまうと途端に夫の機嫌が悪くなるので、我慢して応じるしかありませんでした。
やがて子供が生まれ、幸せな時間が始まるかと思いきや、
産後一週間も経たないうちに、夫は妻にセックスを求めてきたのです。
夫いわく、妊娠後期からずっとセックスを我慢してきた。出産したのだからもう再開してもよいだろう、と。
さすがに出産して一週間後は身体的に無理なので、妻は事情を話して夫に我慢してもらいました。
ただ、そのときに夫から言われた言葉は
「じゃあ、僕の性欲は誰が晴らすの?あなたしかいないじゃない」「体が無理なら手か口でしてほしい」
妻は慣れない育児と体調の悪さで、そのときの夫の言葉を深刻に受け止めていませんでした。
その後、産後三か月検診のとき、検診に同行した夫は、医師にセックスは可能かを質問したのです。
医師は「可能ではあるが、予期せぬ妊娠の可能性もあるので、できるだけ避けるように」と回答しました。
しかし夫は自宅に戻るやいなや、半ば強制的に妻とセックスをします。
あまりの勢いに妻は拒否し切れなかったと言います。
そのとき、妻は夫に避妊を求めましたが、
夫は避妊を拒否して無防備なセックスをしたため、妻は産後三か月で二人目を妊娠してしまいました。
中絶を希望する妻に対して、夫は出産を望みました。
「妊娠しているうちは浮気できないから」 と。
妻もまた、過去のトラウマから中絶を選択することはできず、結局二人目を出産することになりました。
そして2人目出産後三か月経ち、夫は待ってましたとばかりにセックスを求めてきました。
今度は避妊しなければ応じないと妻がきつく言ったことで、夫はしぶしぶ避妊を承諾します。
しかし…夫はそのとき、途中でゴムを外してセックスしていたのです。
妻はそのことを知りませんでした。
案の定、妻は三人目を妊娠します。
避妊しても100%ではないから、という夫の説明を真に受けた妻は、やむを得ず三人目も出産に応じます。
そうして子供が増えることで、妻が常に家にいて、
自分と子供だけを見てくれることに、夫は安心感を感じていました。
しかし、三人連続の年子出産のため、妻は仕事も失い、身も心もボロボロになっていたのです。
そんな疲れ切った妻に無理やりセックスを求めてくる夫。
そのペースは日に日に増してきて、遂に妻は精神的に壊れてしまいました。
もう耐えられない、私はあなたの性欲のためにいるんじゃない、離婚もやむを得ないと夫に詰め寄った妻。
その話し合いのなか、三人目を妊娠したきっかけのセックスで、夫が故意にゴムを外していた事実を知ることに。
騙されていたことを知った妻は、夫との離婚を強く考えるようになりましたが、
幼い三人の子供たちを抱えて、ひとりで生きていく勇気はありません。
考え抜いた末、離婚はしないが今後はセックスに応じるつもりはないと、妻は夫に言い渡します。
そのとき夫が妻に返した言葉は「妻が夫の性欲を晴らさなくて誰が晴らすんだ」「風俗は金がもったいない」
夫の言葉に妻が感じた絶望を思うと、もはや掛ける言葉が見つかりません。
今後、この夫婦に本当の意味での幸せは訪れないでしょう。
なぜなら、夫婦の最低限の信頼関係すら、修復不可能なまでに破壊されたのですから。
それでも親としての義務を果たすべく、義妻は今日も義務感だけで夫との結婚生活を送っています。
妻の顔に笑顔が戻る日は来るのでしょうか?しかし、これも妻が選択した人生です。
■子供を産ませて束縛する夫
15年前に結婚。二人の子供に恵まれ、比較的幸せに暮らしていた夫婦。
しかし最近、夫の帰りが遅くなる日が明らかに増えたのです。
ときには朝まで帰らない日も。妻は夫の浮気を疑うようになりました。
ある日、夫がテーブルに置きっぱなしにしていたスマホの着信音が鳴り、
妻が画面に目をやると、LINEの通知画面に 「昨夜のデートは楽しかった、早く奥さんと離婚して」 の文字が。
妻が夫にLINEのことを問い詰めた途端、夫は妻の顔を殴りました。
「おまえには関係ないことだ!」
暴力を振るわれたことで怖くなってしまった妻は、それ以上夫を問い詰めることが出来ませんでした。
しかしその半年後、妻は三人目を妊娠してしまいます。
年齢も年齢だから、もう妊娠しないと思っていた妻は動揺します。
この歳からの子育ては無理と、妻は夫に中絶を相談しました。
すると夫は 「小さい子供がいれば浮気はしない」 と、まるで妻の浮気を疑っているような発言をするのです。
「浮気をしたのはあなたのほうでしょう?」 と言いたい妻でしたが、
それを言ってまた暴力を受けるのが怖いので何も返すことができず。
結局妻は中絶もさせてもらえず、出産することになりました。
それなのに、出産の直前になると夫は「自分だけの給料で家族の面倒は見られない」と勝手なことを言い出します。
案の定、夫は浮気していたのです。家族の責任を取るのが面倒になったのでしょう。
「浮気はやめて欲しい。これから生まれる子供はどうするつもりなの?」と懇願する妻。
それから数日間、妻は夫から理不尽な暴力を振るわれ続けました。
妊娠中にもかかわらずです。
妻は実家の親に連絡し、これまでのいきさつを全て打ち明けました。
両親は妻の身を案じ、夫が仕事で外出している間に、子供を連れて逃げてくるように進言します。
その後、妻は夫に対して不貞行為とDVで離婚調停を起こします。
裁判で離婚が認められ、親権と養育費と慰謝料を勝ち取ることが出来ました。
現在妻は、妻の実家で子供たちと穏やかな生活を送っています。
夫は浮気相手と付き合っているようですが、再婚までには至っていないようです。
養育費の支払いも滞るようになり、子の面会も要求してこなくなったため、現在妻は、夫との交流を断っています。
■産婦人科は多産DVをチェックしている
カウンセラーが以前、知人の産科医に多産DVについて聞いてみたところ、以下のような回答が返ってきました。
「多産の妊婦が診察に来ると、最初に必ず多産DVの疑いを持ってみる。」
「連続した年子などは明らかなDVであることが多い。」
「妻の体調を気にせず、避妊に協力しない時点でそれはDV。」
「妻自身が、望まないセックスや避妊をしないセックスが、DVに該当することを理解していない。」
「夫はまず、妻に子供を欲しいのかどうか聞いてからセックスをするべき。その感覚が日本人には無さすぎる。」
「古くから今も残る家長制度の影響なのか、妻のことを子を産む機械のように扱う夫があまりにも多い。」
「夫側が、妻に子を産ませることで、妻を支配できると考える節がある。精神的未成熟が影響している。」
産科医は、3人目以降の短期的間隔での妊娠は、DV疑って注意深く見ています。
そのときに出せるヘルプやセーフティーネットがあります。
恐怖に支配され、自ら回避できない人は、産科医に相談してみることもひとつでしょう。