■毒親を棄てた私
相談者は息子から絶縁されたという父親。
絶縁された理由が分からないし、息子が精神的におかしくなったのかもしれないと、
息子を改心させるためのアドバイスを求めるためサロンにやってきました。
父親いわく、ある日、息子が理由もなくいきなり怒り出して、自宅を出て行ってしまったとのこと。
そのまま連絡がつかなくなり、あちこち探したものの、現在も行方不明になっているそうです。
部屋の机の上には、息子からの手紙が残されていたそうです。
まずはその手紙の一部をご紹介しましょう。
■親は一度も対話をしてくれなかった…
どうして「親はえらい。子供は親の言うことを聞くべき。」
という、社会的に正解な話しかしてこないのか、全く理解できません。
これが家族なのか？どうして私があなたの機嫌を取らなければならないのだろうか？
あなたの言い分からは「こいつはどうして俺の世話になっているのに、俺の機嫌をとらないのか？」
という意識が見え隠れしています。
息子に機嫌を取ってもらう親という存在が、どれだけ浅ましく、また恥ずかしい存在なのか、
今一度考えてみてください。
私は、あなたが息子としてやってほしいことを、今までたくさんやってきました。
これまであなたは息子に対して、自分がやってほしいことを要求することしかしていません。
息子を、息子の立場に立って応援したことなど一度もないのです。
あなたは自分がやってきたこと、言ってきたことがどれほど子供を傷つけてきたのか、
どれほど人間としてダメなことだったのか、どれほど家族の絆を壊してきたのか、
理解できていないみたいですね。
今から、私があなたを見限るに至ったエピソードを書いていきます。
たぶん、あなたは全て忘れてしまっているのでしょうね。
当然ですよね、虐待当事者は自分がやってきたことを覚えていないどころか、
記憶から綺麗に消し去っている。
しかし、被虐待当事者は全部事細かく覚えています。
時として、脳の形が変わるほどに刻み込まれているものです。
エピソード１
私はあなたの介護を絶対にしないことを決めています。
私の友達で、大企業を辞めて母親の介護に専念した人の話をあなたにしたとき、
あなたは「そいつは大馬鹿野郎だな」と言いました。
大馬鹿野郎になりたくないので、私はあなたの介護は絶対にしません。
エピソード２
あなたが私を応援したいという言葉は、
いつでも「俺の言うことを聞いた場合に限る」という条件がついています。
だからあなたの言う「応援したい」は、単に「支配したい」にしか聞こえません。
あなたは子供がどんな人生を歩んでいくのかなんて、全く興味がないんじゃないですか？
エピソード３
あなたはいつも、家族と腹を割ったコミュニケーションなんて、できないじゃないですか。
あなたのコミュニケーションスタイルは、そこら辺のヤクザと変わりありませんよ？
相手がビビる程度に大きな声で恫喝し、要求を全てわめいたあと、少しだけ譲歩したように見せる。
すると相手がコミュニケーションを諦めて譲歩するので、いつもあなたの条件がゴリ押しされる。
そんなことをやっているから、自分よりも年下の人間が付いてこないんですよ。
あなたは気が付いていないかもしれませんが、社会でも同じことをしていますからね。
エピソード４
あなたは、私のことを見捨てていないと事あるごとに言っていますし、
親としての責務を果たしているとも言っています。
ただし、あなたの言う「見捨てていない」というのは、
あなたの中で「理想の息子として存在する限り」という条件が付くことを、私は明確に理解しています。
将棋好きの私が11歳のとき、あなたは私にこう言い捨てました。
「そんな金にもならないつまらん趣味は早く飽きてくれないかな」
こうして将棋好きだった私は、あなたから見捨てられてしまいました。
エピソード５
私が小学校3年生のとき、私があなたに何を求めたのか忘れてしまいましたが、
あなたは「お金は投資家が納得しないと出てこないんだ」と笑いましたね。
もうそれは気持ち悪いくらいに、あざけるように笑いましたね。
あの笑い方を少しでも頭に思い浮かべると、いつでもどこでも反吐が出ます。
エピソード６
私の大学受験の際、私立大学の入学手続きに対して、私が興味を示さなかったことがあります。
その私立大学に全く魅力を感じず、行きたくなかったからです。
国立大学への進学を熱望していたのに、あなたはそれを認めてくれなかった。
私が私立大学の入学手続きをしないことを、あなたは母から聞き、それを受けてブチ切れていましたね。
「ふざけんな！親の言うことを聞かないやつは、大学へ行かなくていい、金は払わない！」
このときはさすがに私もブチ切れて、近くにあったモノを投げつけました。
あなたは私が反抗するとは思っていなかったのでしょう。
ヘラヘラ笑いながら「ちゃんとお母さんと話し合って」と適当なことを言って逃げていきました。
結局、私は国立に落ちて、あなたが認める興味のない学部へ行かざるを得なくなりました。
あなた、子供がどんな人生を歩んでいくのかとか、全く興味ないんじゃないですか？
エピソード７
本はいくらでも買ってやると、常日頃から言っていたあなた。
私がクリスマスに欲しがっていた考古学の本の値段を見て一言。
「なんだこれは？この本は何かの役に立つのか？」
あなたにとって役に立たない興味は、この家では貶されるものであることを理解した私。
それでも、どうしても欲しかった私は、自分が貯めたお年玉で購入しました。
英語が出来なくて悩んでいた私にあなたは「こんな本を読んでいるなら英語を勉強しろ！」
そう大声でわめきながら、
私が購入した本を、蹴り飛ばされたときの映像が、今でも頭にこびりついて離れません。
あなたは今まで私の何を応援してくれたのですか？何を見捨ててこなかったのですか？
あなたは自分に興味がないことでも、私を応援してくれたことが一度でもあったのですか？
子供の夢や希望、やりたいことを応援しない親って、完全に子供のことを見捨てていますよ？
まだまだエピソードはたくさんありますが、もう正直疲れ果てました。
あなたと会話をすると、数十年分の嫌なことを思い出して疲れ果ててしまうのです。
ここまで読んできて、あなたはきっと「全部俺が悪いのかよ！」と激怒していることでしょう。
そういうことを様々な場面で言われてきていますから、容易に想像が出来ます。
しかしその言葉は、親としての責任や大人としての責任から、逃げ出すための方便ですよ。
親や大人の都合を子供に分かってほしいなんて、責任逃れの甘えの精神以外の何物でもありません。
あなたは私や弟にずっと甘えているのですよ？
18歳まで育ててやったというただ一つのことを以て甘えているのです。
あなたのその甘えは「だから子供は親の言う通りに生きるべきだ」に直結しているのですが、
それは支配でないのなら、一体なんなのですか？
あなた、基本的に人の人生が上手く回りそうになると梯子を外すクセがありますよね。
だからあなたがやったことしか成功しないのです。
人の人生が上手くいきそうになると梯子を外し、そして人の失敗を予言しますよね。
梯子を外されて失敗してしまうと、あなたの予言が当たりますからあなたは万能感を得て、
外された人はダメージを負うばかりでなく、あなたに隷属せざるを得なくなる。
あなたのコミュニケーションってこの繰り返しであって、
相手を支配することにしか使われないじゃないですか。
私はあなたの息子をやることを辞めましたし、弟も辞めたじゃないですか。
あなた、人間として大丈夫ですか？このことを理解できていますか？
親だと胸を張って言える意味が分かりません。
「なんで俺の機嫌をとらないんだ！」とわめくほど、家族の根幹を傷つけているのが分かりませんか？
自分が何をしているのかも分からず、自分だけが得をすることだけを考えているのでしょうね。
親って楽でいいですよね、勝手にセックスして子供を産んで、
上手くいかなければその責任を全て子供に押し付けて、それでいい人生だったって死んでいくわけです。
それがあなたの生き方なのでしょうけれど、
私は長年に渡ってあなたの影響を受けて苦しみ続けているわけですが、
この恨みは一体誰に吐き出せばいいんですか？
私の誕生日を祝うな。
私が誕生したことに感謝などしていない人に祝われるとか、虫唾が走るし反吐が出る。
おまえが嬉しかったのは、自分の息子ができたからであって、私が生まれたことではないだろう？
■自己愛者（毒親）は都合よく記憶を整理する
息子からの手紙を読んだ父親は、カウンセラーに一言
「この内容は全て息子の妄想だ。書かれていることは一つも記憶にないし、妻にも確認したが事実ではない。」
と真顔で言い放ちました。
確かに客観的に見ると、父親の言う通りかもしれませんし、息子の訴えの通りかもしれませんが、
過ぎ去った過去については当然確認ができません。
しかし、息子たち二人が同時に父親との縁を切っていること、
父親と母親の関係性は悪く、父親は仕事を理由にして不在がちで、
外では不倫を繰り返していたという事実は、父親本人から聞いています。
事実に照らして考えてみれば、息子の訴えは状況的に事実であるとみて間違いないでしょう。
少なくとも息子は、これまでの報われなかった積年の思いを、
最後は父親にぶつけて終わりにしたかったのでしょう。
手紙からの想像に過ぎませんが、息子のこれまでに思いを馳せたとき、
苦しめられながらも懸命に父親の愛を求めている絵が浮かび、
最後の手紙でもその欠片が見え隠れしていることに、胸が押しつぶされそうになりました。
しかし、彼の必死な慟哭は、毒親の心には少しも届いていないのです。
そもそも、毒親は自分の言動をろくに覚えていません。
覚えていないというよりも、自分の都合よく記憶を改ざんし、記憶を消去しているのです。
長年に渡り、息子を散々苦しめてきたにもかかわらず、
そんな事実はないし、記憶すらないと悪びれもなく言い放ちます。
事実、この父親は、息子の放言や妄想だと話していました。
では、毒親は、なぜ過去を覚えていないのでしょう？
基本的に毒親は、自己正当化や自己都合のために、思考を捻じ曲げて生きている人が多いです。
自分に都合の悪いことは記憶を合理化して、全て自分の良いように解釈しているのです。
いつもそのような調子ですから、捻じ曲げた事実の細部までは記憶になく、
自分が良ければよいという感覚なので適当ですし、結果的に覚えていないとなるのでしょう。
そもそも自己肯定感が低い毒親は、少しでも自分が悪かった、自分の責任だとは思いたくないのです。
その理由は「自分が」辛くなってしまうから。
自分に都合の悪いことを、受け止める度量は微塵もありません。
それがたとえ自分の血を分けた子供であっても、毒親は平気で自分だけを守りにいきます。
毒親を持った子供は、親により二度、心に大きな致命傷を負わされます。
一度目は、モラハラやパワハラなど、精神的・肉体的に理不尽な仕打ちを受けたとき。
二度目は、毒親が子供に対して、そんなことは全く記憶にないし、子供の勘違いや妄想だと言われたとき。
子供の心へのダメージは、二度目のほうが大きいのかもしれません。
何故なら、これまで子供がいつか愛してもらえると信じて、ずっと耐えてきた親からの仕打ちを、
一方的になかったことにされてしまうばかりか、子供の勘違いだと言われてしまうのですから。
もっと酷い場合は、周囲にダメな子供を持った哀れな親を演じてみせたりします。
人としてそんなことは許されるはずがありませんし、人権侵害といっても過言ではないでしょう。
そもそも毒親は自己愛者でもありますから、全ての人間関係は「自分だけ」が中心です。
そんな彼らが内省して改心することは極めて稀であり、99.9％変わることは無いといってよいでしょう。
人は神様ではありませんし、尊重されるべきは個人ですから、
自分の人生を切り売りしてまで毒親を支えるなど、尽くして従属する必要はありません。
よく、親に傷つけられすぎて自分に自信が持てなくなり、
自立できないから親から離れられないという人がいます。
もちろんその人をそうさせたのは毒親ですが、かといってそれを理由に親から離れずにいると、
人生を親に囚われたまま、自信を一生吸い取られ続けるという悪循環に陥ってしまいます。
どんなに辛くても無理にでも自立をして距離を置き、
自分の人生を取り戻すところから始めること以外、自分を守る方法はありません。
手紙の息子も、手紙をもって親を断ち切り、過去に囚われ続けた自分も断ち切ったのでしょう。
そのときの気分と機嫌のみで行ったハラスメントを正当化し、
周囲には子供に捨てられた哀れな親を演じるような毒親は、子供から絶縁されて当然です。
手紙の息子が、毒親の呪縛をしっかり断ち切り、過去のトラウマを抱えつつも、
抑え込んできた感情をしっかり吐き出して、
現在は平穏な人生を送っていることを願わずにはいられません。
