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【マッチングアプリの実態】鏡合わせの地獄「必要とされたい」という渇望が招いた執着の果てに

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運命と錯覚した「鏡」のような出会い

始まりは、2023年の年明け。どこにでもあるマッチングアプリでの出会いでした。

当時28歳だった私は、32歳の彼と出会い、これまでにない衝撃を受けました。彼は初対面から猛烈なアピールをしてきて、その熱量に押される形で交際が始まりました。

彼は、私の理想を形にしたような人でした。連絡は驚くほどマメで、週末になればどこへでも連れて行ってくれる。何より驚いたのは、性格や価値観が驚くほど自分に似ていると感じたことでした。

「こんなに波長が合う人は他にいない。彼は私の運命の人だ」

そう確信するのに時間はかかりませんでした。しかし今思えば、それは「自己愛的な投影」だったのかもしれません。私は彼の中に「理想の自分」や「自分とそっくりな影」を見て、彼そのものではなく、自分自身を愛するように彼にのめり込んでいったのです。

剥がれ落ちるメッキと「許し」の罠

幸せの絶頂は、数ヶ月で崩れ始めました。付き合っていくうちに、小さな違和感が積み重なっていったのです。

いつも誰かとLINEをしている様子、さりげなく隠されるスマホ。ある日、私のSNSに見知らぬ女性からの足跡が残るようになりました。不審に思いその女性のアカウントを覗くと、そこには、私とのデートの前日に彼と訪れたはずの景色が投稿されていました。

彼を問い詰めると、彼は平然と「彼女はストーカーなんだ。困っているんだ」と嘘をつきました。当時の私は、心のどこかで変だと気づきながらも、彼を信じることを選んでしまいました。彼を疑うことは、彼と作り上げた「完璧な世界」を壊すことだったからです。

しかし、嘘はさらに肥大化していました。SNSの投稿から彼に離婚歴があるのではないかと疑い、問い詰めると、彼はようやく一部の真実を認めました。

「最初は遊びのつもりだった。でも、本気になってしまって、嫌われるのが怖くて言えなかった。ごめんなさい」

涙を流して謝る彼を見て、私はあろうことか「そこまで私を愛してくれているんだ」と、歪んだ喜びを感じてしまったのです。

本当の絶望は、その後でした。不信感が拭えず、誠意を見せるために「戸籍謄本を持って私の父に会ってほしい」と要求した直後、彼は土壇場でキャンセル。そこでようやく、彼がまだ「既婚者」であったことが判明したのです。

「愛している」という言葉に隠された支配

本来なら、ここで関係を断つべきでした。しかし、物語はさらに複雑な泥沼へと沈んでいきます。

彼は私の父からも厳しく追及され、ついに自分の家庭があること、そして私との情事を無断で動画に収めていたことを白状しました。

動画は奥さんの立ち会いのもとで消去され、彼は私に謝罪しました。普通なら憎しみしか残らない場面です。しかし、彼は奥さんのいない場所で私に囁きました。

「君のことを真剣に愛している。妻とは離婚する。だから待っていてほしい」

その言葉を聞いた瞬間、私の心はまた揺れ動いてしまいました。解決したらまた会えるのかと聞くと、彼は「会えるよ」と優しく微笑みました。

こうして私は、被害者から一転、「不倫関係」という共依存の沼に足を踏み入れました。「離婚する」という言葉はただの引き延ばしで、彼は相変わらず別の女性たちとマッチングアプリで出会いを繰り返していました。私がそれを指摘すると、彼は豹変して私を罵倒するようになりました。

「お前が面倒くさいことを言うから、俺は浮気をするんだ。全部お前のせいだ」

この「責任のすり替え」により、私の自己肯定感はズタズタになりました。私が悪いから彼を怒らせる、私がもっと理解のある女になれば彼は変わってくれる。そんな思考停止状態に陥り、心身のバランスは限界を迎えました。

昨年の夏、私は感情の制御を失い、自らベランダから飛び降りるという事態にまで発展しました。全身の骨折で救急搬送され、入院。それでも、見舞いに来た彼から「また会おう」と言われると、別れずに済んだことに安堵している自分がいたのです。

10万円の「手切れ金」と、突きつけられた侮辱

秋になり、彼は「離婚はできていないが、妻と一緒に住むのは嫌だ」と引越しを決めました。

「妻に貯金を全部持っていかれた。金がないんだ」

そう嘆く彼に、私は10万円を貸しました。助けてあげたい一心でしたが、彼は「ありがとう」の一言もなく、「家賃の一部として受け取っておくよ」と当然のような顔で受け取りました。

新しい家は教えてもらえず、手伝いも断られ、連絡は途絶えがちになりました。予感は的中しました。彼は以前、私と一緒に彼の奥さんに会いに行った「もう一人の女性」を新居に招き入れ、彼女に家賃や家具を貢がせていたのです。

マンションを突き止め、彼を待ち伏せした私を待っていたのは、信じられない言葉でした。

「お前はストーカーだ。危険人物だから家に入れたくなかったんだ」

貸したお金の返金を迫ると、同席していた女性がPayPayで10万円を送ってきました。彼の借金を、別の女性が肩代わりする。その光景に吐き気がしましたが、それでも彼が優しく接してくると、私は再び彼と関係を持ってしまいました。

「これからセフレでいいか?」

そう侮辱されても、彼に求められる瞬間にだけは、自分の輪郭を取り戻せるような気がしてしまったのです。

警察からの電話と、偽りの終止符

年の暮れのある日、私はついに彼との別れを決意しました。彼のマンションで、置いてあった同居女性の化粧品を捨ててしまったのです。それは、私の中に溜まったドロドロとした感情の噴出でした。

彼は激昂し、警察を呼びました。私は警察官から「二度と彼に関わらないように」と厳重注意を受けました。

そこから先は、彼による徹底的な「排除」が始まりました。SNSのブロックと解除を繰り返し、私の心を弄んだ挙げ句、私が送った「もう前を向きます」という最後の手紙さえも、彼は「つきまといの証拠」として警察に提出したのです。

年が明けてすぐ、警察から電話がありました。

「彼から、不審な年賀状が届いたと通報があった。心当たりはないか?」

身に覚えのないことで疑われ、警察官からは「これで本当に終わりにしなさい」と告げられました。彼は警察に対しても、自分から私にLINEを送っていた事実を隠し、私を一方的な犯罪者のように仕立て上げていたのです。

「必要とされたい」という病に気づいて

今、私はようやく彼という嵐が去った後の、荒れ果てた野原に立っています。カウンセリングを通じ、自分の心の中で起きていたことを整理しています。

私が彼に執着したのは、彼を愛していたからではありませんでした。「誰かに必要とされたい」「誰かの特別でありたい」という強烈な飢餓感が、彼の嘘や暴力的な支配さえも「愛」というラベルを貼って受け入れてしまったのです。

彼は私の弱さを鋭く見抜き、そこを徹底的に利用しました。私が彼に勝てる唯一の方法は、復讐することでも謝らせることでもなく、「彼がいない世界で、私自身が私を必要としてあげること」だと、ようやく気づき始めています。

他の男性から求められることに嫌悪感を感じるのは、まだ心が「誰かの所有物」であった時の痛みを覚えているからでしょう。今の私に必要なのは、新しい恋ではなく、自分の負った心の傷(PTSD)を正しく理解し、バラバラになった感情を一つひとつ丁寧に拾い集める作業です。

この物語は、まだハッピーエンドではありません。けれど、警察から電話が来たあの日、私の心の中で何かが静かに死に、何かが新しく芽生えたのも事実です。「必要とされたい」という痛みを抱えたまま、私は今、誰のためでもない、私自身のための人生を歩き出そうとしています。

【コラムのポイント:専門的な視点】

この事例では、次の心理的メカニズムが働いています。

共依存とトラウマによる絆:

相手から不当な扱い(ガスライティングや経済的搾取)を受けているにもかかわらず、時折見せられる偽りの優しさに依存し、離れられなくなる状態です。

投影(プロジェクション):

相手の中に自分自身の願望や性質を映し出し、理想化してしまうこと。特に「似ている」と感じる時は注意が必要です。

自己愛的で身勝手な搾取:

相手を人間としてではなく、自分の自尊心を育てるための「道具(自己対象)」として利用する行為。

もし、この記事を読んで「これは自分のことだ」と感じた方がいたら、どうか自分を責めないでください。

あなたの執着は、愛が深かったゆえではなく、それほどまでにあなたの心が助けを求めていたサインなのです。まずは専門家の手を借り、客観的な事実の整理から始めてみましょう。

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