予期せぬ夫の不倫の発覚は、夫婦にとってまさに青天の霹靂です。
これまで共に歩んできたはずの伴侶が、自分以外の誰かと特別な関係を持っていたという事実は、言葉に尽くせないほどの衝撃と深い悲しみをもたらします。
「まさか、あの人が…」
そんな信じられない気持ちと同時に、これまでの二人の関係は何だったのだろうかという疑問、そして裏切られたことへの激しい怒りや、自分自身の存在価値まで揺るがされるような喪失感に苛まれることもあるでしょう。
気が付けば、夫の行動にこれまでとは違う様子が見られるようになったと感じていた奥様もいらっしゃるかもしれません。
しかし、それを指摘することで関係が壊れてしまうことを恐れ、見て見ぬふりをしたり、心の中でそっと蓋をしてやり過ごしたりしてきたのではないでしょうか。
不倫という事態に直面した夫婦が辿る道は、決して一つではありません。
時間をかけてじっくりと話し合い、お互いの気持ちに寄り添いながら、以前と変わらぬ穏やかな生活を取り戻されたご夫婦もいらっしゃいます。
一方で、夫が不倫相手との関係を解消したとしても、夫婦間の溝が埋まらず、最終的に離婚という選択をされるご夫婦もいらっしゃいます。
夫婦にとって、どちらの道を選ぶのかという決断は、不確かな未来への大きな岐路であり、計り知れない葛藤を伴うものと言えるでしょう。
重要なことは不倫を認めさせることではない
不倫が発覚した際、まず頭に浮かぶのは、不倫の証拠を集め、それを突きつけて夫に不倫の事実を認めさせ、不倫相手との関係を断たせることかもしれません。
確かに、不倫の事実確認や関係の解消は、問題解決に向けた重要なステップではあります。
しかし、不倫問題の本当の解決とは、夫婦二人が共に傷ついた心を癒し、再び信頼関係を築き上げていくこと、つまり『心』を取り戻すことなのです。
不倫の決定的な証拠を掴み、夫に不倫を認めさせたり、不倫相手と別れさせたりすることは、あくまでもその過程に過ぎず、それだけで最終的な解決を迎えるわけではありません。
そして、この最終的な解決こそが、非常に困難な道のりとなることが多いのです。
不倫を『した側』と『された側』の温度差
夫の不倫が明らかになった時、妻の心は深く傷つき、疲弊しきっています。
たとえその後、夫が不倫相手と別れて妻の元に戻ったとしても、一度失われた信頼を取り戻すことは容易ではありません。
妻は、夫の言葉や行動の一つひとつに疑念を抱き、常に不安な気持ちを抱えながら過ごすことになるかもしれません。
心の傷は深く、ふとした瞬間に不倫の記憶がフラッシュバックし、感情的に不安定になったり、夫を責め続けてしまったりすることもあるでしょう。
一方、不倫をした夫は、不倫相手と別れ、毎日きちんと家庭に戻り、これまでの償いとして妻に優しく接するなど、自分なりに精一杯の努力を見せるかもしれません。
夫の心の中では、「もう相手の女性とは別れたのだから、妻に謝罪もした。これで元の夫婦に戻れるだろう」と、不倫問題を過去のものとして捉えようとしているかもしれません。
しかし、傷つけた側と傷つけられた側では、その記憶や感情に大きな温度差が生じてしまうものです。
傷つけられた側の心が癒え、再び人を信じられるようになるまでには、想像をはるかに超える長い時間と、丁寧な心のケアが必要となるのです。
した方もされた方も『我慢』には限界がある
夫にとっては既に過去の出来事であっても、妻にとっては決して忘れられない心の傷として深く刻まれています。
「あの時、あなたはこんな嘘をついた」
「私を酷く裏切った」
「不倫相手と一緒になって、私の存在を全否定した」
などと、過去の出来事を何度も持ち出し、夫を責めてしまうこともあるでしょう。
このような状況が繰り返されると、夫も精神的に耐えきれなくなり、逆上したり、感情的に反発したりすることがあります。
この時、夫は妻がどれほどの苦しみの中にいるのか、ほとんど理解できていません。
傷ついた妻の心を理解しようと努力することさえ途中で諦めてしまう、無責任な夫も存在します。
元を辿れば、夫自身が引き起こした問題であり、重大な裏切り行為であるにもかかわらずです。
こうして、夫婦それぞれの心の溝は、まるでらせん階段を降りるように深く、険悪なものへと悪化の一途を辿ってしまうのです。
この困難な状況をどう乗り越えるかが、不倫を乗り越え、夫婦の関係を再構築するための大きな課題となります。
喧嘩をして相手の許容ラインを知る
このような難しい状況を乗り越えるためには、夫婦が互いに真正面から向き合い、自分の心の内をありのままにさらけ出し、時には感情的にぶつかり合いながらも、お互いの気持ちを共有し合うという姿勢が何よりも大切です。
よく見られるパターンとして、
精神的な負担となる議論を避けようとする
負の感情が爆発することを恐れて、本音でぶつかり合えない
喧嘩をしたくないから、問題から目を背けて見て見ぬふりをする
といったものがありますが、これでは相手が何を考え、どこまでなら受け入れられるのかといった許容ラインを理解することができません。
結果として、お互いに心の奥底で不満や我慢を積み重ねてしまうことになります。
大切なのは、表面的には穏やかであっても、心の中でわだかまりを抱えたままやり過ごすのではなく、時には衝突を恐れずに本音を語り合うことです。
感情的に対立することもあるかもしれませんが、それはお互いの深い部分を知り、理解を深めるための過程でもあります。
お互いの痛みを理解し合い、もう一度夫婦としての強い絆を取り戻したいという共通の願いを持って、夫婦が一つになっていくこと。
そして、その思いを互いが心から実感できたならば、問題は根底から解決へと向かい、ようやく穏やかな日々を取り戻すことができるのではないでしょうか。
夫婦の再構築は、決して容易な道ではありません。
しかし、お互いを思いやる気持ちと、困難に立ち向かう勇気があれば、必ず乗り越えられるはずです。
焦らず、諦めずに、二人でゆっくりと歩んでいくことが大切なのです。