相談者・32歳女性 会社員
相談者の不倫相手・48歳男性 会社員
相談者の恋人・35歳男性 会社員
私の不倫は相手への尊敬と憧れから始まった。
希望していた会社への転職が決まって、すぐにでも成果を上げたい気持ちはあったし、職場に慣れたいと頑張り過ぎたのかもしれない。
同僚から仕事を頼まれたら徹夜してでも仕上げたし、仕事を家に持ち帰って週末を潰して仕上げたこともある。
自分が関係しない仕事でも頼まれたら断らなかった。
中途採用だから周りに尽くすのは役目だと思ってた。
仕事に気合が入っていたから無理も出来たけれど、正直言うと身体も心も悲鳴を上げていたのは事実。
そもそも私はそういうやり方しか知らなかったのだ。
自分より周りを大事にしてしまう癖は、思えば小さい頃からだった。
そろそろ限界かなと感じ始めてきたとき、そんな働き方では自分を潰してしまうよと、直上の上司が私を優しく諭してくれた。
年上の人から優しく注意されたのは初めてで、私は違う意味で心が動揺してしまった。
そして仕事の愚痴を黙って聞いてくれた上司。
私は上司を異性として好きになってしまった。
ホテルに誘ってきたのは上司からだったが、その誘いを拒む理由は私の中にはなかった。
■自分たちの不倫は他とは違うと思っていた
交際の最初はただただ刺激的でしかなかった。
お酒を飲みながら仕事の議論を戦わせたり、私たちは人目も憚らずデートを楽しんだ。
仕事が余計に楽しく感じてならなかった。
交際が仕事のモチベーションになったことで、不倫の罪悪感は感じなくなっていた。
出張は必ず同行にして宿泊も同室にした。
同僚からは「いつも一緒だね」と言われていたが、周囲は私たちの関係に気が付いていないと、自分の思考にバイアスをかけていたと思う。
上司との時間は公私ともに刺激的なものだった。
周囲に尽してばかりで報われなかった私の人生で、これまでにない陶酔感がとても刺激的だった。
当時私には長く同棲していた彼がいたが、途中から彼の存在が疎ましくなっていった。
上司は私が同棲していることを知って、嫉妬して怒りをぶつけてくるようになった。
同行出張の帰りに同僚への土産を買うと、「それは彼への土産だろう!」と怒り出して、土産を新幹線のゴミ箱に捨てさせられた。
上司は私を帰宅させないようにするため、仕事の話があるからと私を呼び出し、終電が終わるまで私を帰してくれなかったり。
お酒のペースを早めて私を酔い潰して、そのままホテルに連れ込むこともしばしばあった。
上司は私の同棲に不満をぶつけてきたが、私は上司が既婚者であることに、不満をあらわにしたことはなかった。
言ったら嫌われると思っていたから。
でも本音では妻と離婚して、私と再婚してほしいと思っていた。
■蜜月期が過ぎて本性を現した上司
上司との関係が日に日に深くなっていき、以前にも増して帰宅が遅くなっていった私。
同棲している彼が浮気を疑うのも当然だった。
「最近ずっとおかしいよ」
彼はそう言うに留め、それ以上喧嘩にはならなかった。
「言いたいことがあれば言ってくればいいのに!」
「上司ならトコトン話し合うのに彼はそうしない!」
私の彼に対する見方が、上司との比較になっていく。
それが彼なりの私への尊重だとは気が付けなかった。
当時の私はそんな彼の気持ちを理解できなかった。
彼を疎ましくなり家でも避けていた私。
ますます上司との交際に傾倒していった。
洗脳のように上司一色に染まっていた私。
いつの間にか上司が私の全てになっていた。
そんな私を見て、上司の優越感が増長したのは、当然の流れだったと思う。
ある日の仕事終わりに上司と夕飯へ行った。
上司の妻子は用事で実家に帰ったらしく、今日は一人だからゆっくりできると言う。
私は同棲する彼と大事な用事があったので、その日は早く自宅に帰るつもりだった。
上司はそれを知るやいなや不機嫌になり始めた。
そして、仕事のプロジェクトチームから、いきなり私を外すと言い出したのだ。
明日から会社へ来るなと脅しまでしてくる。
全ては私が彼の約束を優先しているからだ。
上司は自分が蔑ろにされたと憤っている。
「他の部下より重用してやっているのに、俺を後回しにするなんてありえない」
「俺がありながら他の男を優先するなんて、俺に対する裏切り行為と取るから」
「これまでプロジェクトに参加できたのも、特別に俺が取り立てたからなのに恩知らず!」
レストランで大声で恫喝してくる上司が怖かった。
これまでずっと優しかった上司が、信じられると思って愛してきた上司が、私を恫喝したことが信じられなかった。
過去、私は父親から同じような扱いをされてきて、大学を卒業して自立しやっと離れられたのに、また信じていた人から脅されて支配されるの?
私はそんなに価値のないダメな人間なの?
私は自分の意思を持ってはいけないの?
結局、彼の約束はキャンセルして、その晩は上司が求めるままホテルに泊まった。
ドタキャンされた彼は何度も電話をしてきたが、彼からの着信やLINEは全て無視した。
スマホを確認しようとすると上司が怒り出したから。
信頼して尊敬して愛していた上司だったのに、その日を境に上司と私は支配と隷属関係となった。
■エスカレートする性奴隷と会社でのパワハラ
自宅に帰った私を待っていたのは、彼からの容赦ない詰問だった。
なぜドタキャンして連絡が付かかったのか。
なぜその日は帰ってこなかったのか。
最近様子がおかしいが一体どうしたのか。
彼の怒りは当然だと思った。
それほど酷いことをしているのは分かっている。
申し訳ないと思う気持ちとは裏腹に、彼にぶつけたのは言い訳のような怒りだった。
「彼が同棲から結婚へ進めるのが遅かったから!」
「私は不安から上司を好きになってしまったんだ!」
「だから私は悪くないし、責められるのは筋違い!」
そうやって彼を断罪することで、自分の罪悪感を軽くしようとしたのだと思う。
上司の豹変ぶりを目の当たりにして、私は正常な思考が働かなかったのだろうか?
結局、それも自己弁護でしかないのは分かっている。
逆切れする私を見て、それ以降彼は何も言わなくなった。
彼もどうしたらよいのか分からなかったようだ。
その後は生活に必要なこと以外、会話がなくなってしまった。
その後の同棲生活は惰性で過ごす日々となった。
上司は仕事が出来る人で野心家であり、周りを上手に巻き込んで、プロジェクトを成功させていくお手本のような人。
そんな上司に逆らえる気力があるわけもなく。
公私ともに上司は、私との関係を泥沼化させていった。
上司のプロジェクトには全て私を組み入れる。
出張同行は必ず指名され、朝から夜まで一緒に過ごす。
社内でもその関係を疑う人間はいたようだが、上司が怖くてそれを指摘できる人間はいなかった。
打ち上げで私が同僚男性と隣で話していると、上司はLINEで私を裏に呼び出した。
「隣に男を座らせるとはどういう了見だ?」と、私を恫喝し途中で帰らされたこともあった。
時には同僚男性に喰ってかかることもあり、周囲の人間が止めに入ることもしばしばあった。
夜にLINEで話をしていて言い合いになると、説教が始まって7時間以上徹夜で話が続いた。
そのまま朝を迎え、眠い目をこすりながら出勤することが当たり前になった。
私の思考はその辺りから完全に崩壊していったと思う。
そのうち上司は暴力的なセックスをするようになる。
サディスティックでアブノーマルなプレイばかり。
それを拒否すると不機嫌になるので断るのが怖い。
上司と過ごす時間が苦痛でしかなくなっていった。
全裸でベッドに横になった写真を送ってくれ。
自慰を見せ合う動画を撮りたいから自慰をしろ。
使用済みの下着が欲しいから脱いでそのまま帰れ。
挿入しながら気を失うまで首を絞められる窒息プレイ。
寝取られがしたいから他の男性とセックスしろ。
ハプニングバーで不特定多数とのスワッピングをしよう。
断ったら仕事で冷遇される怖さと、パワハラをされるのが何より恐ろしい。
支配的なセックスは苦痛そのものだったけれど、断れないのなら楽しむより他の方法がなかった。
振り返ると私の思考が異常だったと痛感する。
その頃はもうまともに考えられなかった。
何が正しくて何が間違いなのか分からない。
上司に怒られないように怒らせないように、私はただそれだけしか頭になかった。
■決定的な出来事を機にカウンセリングを受ける
性的に凌辱されるたび自分の心が壊れていった。
自分は人に支配され我慢する人生しかないのか?
支配されるのは自分がダメな人間だからなのか?
自己否定をしているうちに睡眠が取れなくなり、食べ物も受け付けなくなっていった。
その頃の私は毎週のように体重が落ちていて、疲れやすくなって家事も出来なくなり、そのフォローは全て同居する彼がしてくれていた。
自分が情けなくて彼に申し訳ない気持ちと、同時に馬鹿にされているような気がして、彼に素直にありがとうを言えなかった。
そんな時に上司との海外出張が決まった。
出張先はオランダのアムステルダム。
いつものように上司とは宿も部屋も同じにされ、5日間24時間一緒にいることになった。
海外出張の高揚感も手伝って上司の機嫌もよく、私も嫌なことは忘れられるような気がしていた。
仕事も順調にこなして迎えたオフの日、上司がベッドで寝ている私にある物を見せてきた。
「これを使うとセックスが楽しくなるよ」
なんとそれはオランダでは合法の薬物だった。
もちろん日本国内では違法薬物だ。
上司はこれを楽しみに、私との同伴出張を組んだのだ。
拒めばパワハラをされてしまうし、何よりここは海外。
こんなところで関係が悪くなってしまったら、逃げるところも隠れるところもなくなってしまう。
どうしたらよいのか分からずに困惑していると、途端に私の意識が遠のいて、目の前が真っ暗になった…
気が付くと私はベッドに寝ていて、目の前には心配そうに見つめる上司がいた。
聞くと話の途中に私は突然意識を失ったとのこと。
上司は驚いたようでそれ以降は、薬物セックスのことを話題にすることはなかった。
なぜ気を失ってしまったのか分からなかったが、もう精神的に限界だということは理解していた。
海外とはいえ違法なことまで持ち掛けられて、もう自分の頭では処理できなくなってしまった。
誰かに助けを求めなければならないと思った。
一番に彼に相談するべきなのかもしれないが、ここまで裏切りを重ねて、犯罪未遂のことまで、とても伝えられなかったし話すのが怖かった。
生育歴でも父から受け入れてもらえずにきて、上司にも支配されて恫喝されてきていて、彼にも怒られるのはとても許容出来なかった。
そんなときに見つけたのがカウンセリングだった。
上司とのこれまでのことを打ち明けていたら、生育歴で受けた父からのDVやモラハラのことも、全て話せた自分がいて正直驚いてしまった。
ずっと誰かに聞いて欲しかったんだと思う。
愚痴はダメな自分を認めることになるから、誰にも言えず自分の中にしまい込んできた。
だから良い対処法を考えることも出来ず、従属するよりなかったのだと今では思う。
第三者に話せただけで半分解決した気がした。
カウンセラーは悩みを聞くだけではなく、これからどのように進んでいくべきか、選択肢を与えてくれて選択を私に委ねてくれた。
「こうしなさい」という押し付けではなく、「こうしたい」という私の選択を尊重してくれた。
そして対処法を隣で一緒に考えてくれた。
悩んだ挙句に私が出した結論は、「上司と別れて責任を取らせるまで戦い抜く」だった。
■上司への決別宣言と懲戒処分
これまでずっと気が付かずに来たのだが、私が上司からされてきたのはパワハラだった。
自分が悪いから支配は仕方ないと思ってきたが、それは上司の理想の押し付けだったということ。
上司も周りには押し付けと支配でしか、コミュニケーションを図れない気の毒な人だということを知った。
そして上司以外の人間ならば誰もが、私のようになる可能性があったということ。
上司のパワハラは法的に問題があるので、戦うのならば正攻法で戦っていくべきと。
その戦いは自分の尊厳を守るためにも、自己肯定感を護るためにも、とても重要なものだということを教えられた。
上司との不倫は、私自身も望んで始めたことなので、やってきたことの責任は、私自身甘んじて負うべきこと。
その上で上司からされてきた行為はしっかり告発する。
この方向で弁護士を入れて戦っていくことになった。
上司の立場で私的感情を入れて業務の人選をしたり、会社のコンプライアンスに抵触する違反行為。
特に出張先で違法薬物使用未遂があったこと。
私や他の同僚に度重なるパワハラをしたこと。
それらを立証するLINEや写真などをかき集めて、会社の人事上層部と話をすることになった。
人事部は告発内容に一同驚愕していたが、私の決意を知って真摯に話を聞いてくれた。
警察への刑事告訴も視野に入れていると伝え、会社の私への処分も甘んじて受け入れると伝えた。
それと同時に上司にも直接会い、私の決意を話した。
これをもって関係を終わりにすると伝えるも、上司はさほど驚きもせず、「そろそろ不倫はヤバいよな」の一言で、地獄の不倫関係は意外と簡単に終わらせることが出来た。
結局、全ては私の心の在り方一つだったのだなと知った。
私は自分で困難を呼び寄せていただけのかもしれない。
嫌なことは嫌だと主張を相手にきちんと伝えること。
相手の反応が怖いからと従属してしまった結果が、自分の人生を困難にさせた全ての原因だと知ったのは目からウロコなことだったが、同時に自己肯定感を大きく下げることにもなった。
ただ、これまでのように自己否定をして、自信喪失から内にこもるのではなく。
今後はこうしていけば良いのだという、前向きな気付きを得られたのはとても大きかった。
その後上司は、会社から懲戒処分を受けた。
上司は私の責任を主張して抗っていたが、会社から申し渡される形で自主退職することになった。
私も懲戒処分を受けたが、減給処分だけで済んだ。
告発をしたことが評価され、会社から温情を受けたのだ。
私は当事者として自主退職をするつもりでいたが、上層部からは、辞めずに一からやり直すよう励ましてくれた。
私は初めて人から認めてもらえたような気がして、戦いから逃げずにここまで来て良かったと心から思えた。
この事例は類似事例をいくつか組み合わせていますが、全てノンフィクションです。
登場する主人公の彼女は、当時同棲中の男性と結婚し、現在は幸せに暮らしておられます。
会社でも変わらずご活躍で、楽しく働いているそうです。
今も定期的にカウンセリングに通われていますが、現在進行形の悩みではなく過去の振り返りとして
、これまで言えずにきたことを聞いてもらう目的でいらしています。
何より彼女には支えてくれる彼がいたこと。
良い部分も悪い部分も彼女だと尊重してくれたこと。
そんな彼の存在が、彼女の今に一番大きく影響したのだと実感しています。