恋愛は、人生に彩りを与え、私たちを成長させてくれる素晴らしいものです。
しかし、時にはその関係が私たちを深く傷つけ、自己を見失わせてしまうこともあります。
今回お話しするのは、鈴木さん(仮名)が経験された、複雑で苦しい恋愛のお話です。
このエピソードは、単なる失恋話ではなく、自己肯定感の欠如、複雑性PTSD、そして共依存といった問題が深く絡み合った、心の回復への道のりを教えてくれることでしょう。
鈴木さんは、社会人になってから精神的に不安定な状態が続き、精神科にも通院されていました。
その中で出会ったある男性との関係は、彼女の心をさらに深く傷つけることになります。
しかし、この困難な経験を通して、鈴木さんは自分自身と向き合い、新たな一歩を踏み出すための大切な気づきを得ていきます。
彼女の経験から、私たちは何を学び、どのように自分自身を守り、そして前向きに進んでいけば良いのでしょうか。
■彼の「嘘」から始まった関係
鈴木さんと彼との出会いは、マッチングアプリでした。
彼は鈴木さんに猛烈なアピールをし、鈴木さんも彼の楽しさ、優しさ、マメな連絡、そして真面目そうな一面に惹かれ、交際が始まりました。
しかし、関係が深まるにつれて、鈴木さんは違和感を覚えるようになります。
彼は常に他の女性とラインをしている様子で、スマホを隠し、SNSには見知らぬ女性の足跡が残されていました。
鈴木さんが彼のSNSを検索すると、彼が連れて行ってくれたデートスポットの写真が、彼と行く前日に別の女性と訪れたかのように投稿されているのを見つけたのです。
彼に問い詰めると、その女性はストーカーだと説明されましたが、鈴木さんの疑念は拭えませんでした。
鈴木さんは彼のSNSを調べ、彼に離婚歴があるらしいことを知り、彼を問い詰めました。
問い詰められた彼は、最初は遊びのつもりだったが、なかなか言えなかったと謝罪します。
鈴木さんは、彼が謝ってくれたことに安堵し、嘘はもうやめてほしいと伝え、彼を信じることにしました。
この時、鈴木さんの心の中には、「彼に信じてもらえた」という喜びと、「彼を失いたくない」という強い思いが入り混じっていたのかもしれません。
しかし、彼のスマホに複数のマッチングアプリが入っているのを見つけ、スズキさんは再び不信感を募らせます。
鈴木さんは彼に、真剣に付き合いたいなら戸籍謄本を持って父親に会ってほしいと要求しました。
彼は一度は了承したものの、直前になってキャンセル。
さらに、彼は他にも交際している女性がいたようで、面倒になると関係を切ることを繰り返していることが判明します。
■明らかになる真実と深まる心の傷
鈴木さんは、彼のSNSに足跡をつけていた女性に直接連絡を取り、会うことになります。
その女性の母親も同席し、彼を呼び出して問い詰めることになりました。
この話し合いの中で、さらに衝撃的な事実が明らかになります。
なんと彼は既婚者だったのです。
バツイチだと聞かされていた鈴木さんにとって、これはあまりにも大きな裏切りでした。
さらに、彼が鈴木さんとのセックスの動画を撮っていたことも発覚します。
犯罪に利用されることを恐れた鈴木さんは、警察官である友人に相談し、友人同席のもと彼を問い詰めます。
彼は最終的に、保険証を提示し、結婚していることを白状しました。
鈴木さんの友人は、彼の妻に動画のことを話し、動画を消してもらうよう彼に迫りました。
実際に、彼の妻に話が通され、動画も消去されたことを確認できました。
彼は鈴木さんに謝罪しましたが、鈴木さんの父親が同席を求めると、彼は拒否しました。
鈴木さんは調停も考えましたが、彼は応じませんでした。
そんな中、彼は鈴木さんに対して「真剣に愛している」「妻とは離婚して鈴木さんと結婚したかった」と告げます。
この言葉を聞いて、鈴木さんは嬉しくなってしまいました。
彼から同意書を取り、今後のやり取りや動画消去の確認をしました。
彼は「妻とは離婚してやり直したいから待っていてほしい」と言い、鈴木さんはその言葉に未来への期待を抱いて交際を復活させてしまいます。
これにより鈴木さんは自ら不倫関係へ進んでしまうことになりました。
しかし、彼は結局、離婚すると言いながらも離婚せず、さらに他の女性との付き合いも始めていました。
マッチングアプリも続けており、鈴木さんが気に入らないことを言うと、ブロックするような行動も繰り返されました。
彼は「お前が面倒くさいことを言って、問い詰めてくるから浮気をする」と、すべての責任を鈴木さんに転嫁するようになってしまいます。
このような状況の中、鈴木さんは精神的に追い詰められ、OD(オーバードーズ)し、2階のベランダから飛び降りて骨折、救急搬送される事態にまで陥りました。
彼は鈴木さんを気遣う言葉をかけ、「また会おう」と言ってきました。
このとき、鈴木さんの心の中には「別れずに済んでホッとしている自分」もいたと言います。
■深まる泥沼と共依存のサイクル
その後、彼は妻と別居することになります。
離婚はできていないが、一緒に住んでいるのが嫌だからと。
そして、妻に金を巻き上げられたと言い、鈴木さんに現金50万円を貸してほしいと頼んできました。
鈴木さんは彼に50万円を貸しましたが、彼は「ありがとう」という言葉もなく当然のように受け取ったのです。
彼は「離婚したら一緒に住みたいね」とも言い、鈴木さんは未来があるかもしれないと、またもや期待を抱いてしまいます。
しかし、彼は鈴木さんに新しい住所を教えることはありませんでした。
その後、引っ越しで忙しいと話す彼と、徐々に連絡が付かなくなってしまいました。
鈴木さんは、彼が誰か別の女性と一緒にいるのではないかと感じ始めます。
鈴木さんは彼の住まいを探し当て、週末に彼の自宅前で、彼の帰りを待っていました。
すると、彼が見知らぬ女性と一緒に戻ってきたのです。
二人の前に飛び出した鈴木さんは、これまでの事情を女性に話したところ、二人は付き合っているから、もう関わらないでほしいと言われてしまいました。
彼は鈴木さんに対して、「ストーカーをする危険人物だから住所を教えたくなかった」と言い放ちます。
鈴木さんは貸した50万円の返還と関係解消を迫りましたが、彼は返済する金がないと語ると、なんとその女性がその場で彼の借金を返済したのでした。
その後、鈴木さんは体調を崩してしまいます。
そんな鈴木さんに、彼はまたもや優しく接してきました。
心が弱っていた鈴木さんは彼とセックスしてしまいます。
鈴木さんは酷い彼でも求められることを嬉しく感じてしまうのでした。
そんな鈴木さんに彼は「これからセフレでいいか」と言い放ちます。
鈴木さんは彼の言葉に傷つきながらも、やはり彼と離れることはできませんでした。
彼は鈴木さんに、「セックスしたことを妻や彼女に言ったら脅迫罪で訴える」と脅してきます。
それでも鈴木さんは彼と離れることができません。
■警察沙汰と心の変容、そして新たな一歩へ
それから数か月後、鈴木さんはついに彼と別れる決意をします。
彼のマンションに置いてあった彼女の化粧品を部屋中に投げ捨てたのです。
それは鈴木さんなりの覚悟の上の行動でした。
彼は鈴木さんの行動に激怒し警察沙汰にしてしまいます。
鈴木さんは警察からもう彼に近づかないように言われました。
しかしその後、彼は再び鈴木さんに連絡を取ってきました。
連絡が来るとつい心がほだされてしまう鈴木さん。
近づくと彼は冷たく離れていき、離れると再び近づいてくる彼。
もう鈴木さんの心はボロボロになってしまいました。
この段階に来てようやく鈴木さんはカウンセラーに相談します。
カウンセラーは、「彼と離れる唯一の方法は、もう他の道を進み始めましたと、自分の口から彼にハッキリ別離を伝えることだ」と助言しました。
それまで鈴木さんは、「彼に必要とされたい」「彼に必要とされない自分が嫌だ」と感じていました。
「それは彼を好きなのではなく、誰かから求めてもらえない自分が不安で焦っていたからではないか」
そうカウンセラーに言われた言葉が、鈴木さんの胸に突き刺さったのです。
鈴木さんは誰かに依存したかっただけなのかもしれません。
■自分を取り戻すための対処法
鈴木さんのエピソードは、共依存関係の典型的なパターンと、そこから抜け出すことの困難さを示しています。
彼への執着は、彼に「必要とされたい」という強い願望と、「自己肯定感の低さ」が根底にあったと考えられます。
彼からのひどい仕打ちにもかかわらず、わずかな優しさや愛情の言葉に希望を見出してしまうのは、自己価値を他者に委ねてしまっている状態です。
この問題に対処し、自分自身を取り戻すためには、いくつかのステップが考えられます。
1・専門家との継続的な対話
まず、精神科医や臨床心理士との継続的なカウンセリングは不可欠です。
鈴木さんは生育歴で母親からの虐待経験がありました。
恐らく鈴木さんの依存性は生育歴が大きく影響していると思われます。
心理療法を通じて、自身の感情や行動パターンを客観的に見つめ直し、健康的な対処法を学ぶことができます。
2・自己肯定感の向上
彼からの承認や愛情を求めるのではなく、自分自身の価値を内側に見出すことが大切です。
これは簡単なことではありませんが、小さな成功体験を積み重ねたり、自分の良い点、好きな点を見つける練習をしたりすることで、少しずつ自己肯定感を高めることができます。
趣味を見つける、新しいことに挑戦するなど、彼以外の世界に目を向けることも有効です。
3・彼との関係の物理的な断絶
今回の経験を通して、彼との関係が鈴木さんの心身に悪影響を及ぼしていることは明白です。
警察からの忠告を受け入れることはもちろんのこと、彼からの連絡を完全にシャットアウトし、物理的な距離を保つことが重要です。
SNSのブロックを徹底し、共通の知人を介して連絡を取ろうとすることも避けるべきです。
彼の言葉や行動に一喜一憂するサイクルから抜け出すためには、一切の接触を断つことが一番の解決策になります。
4・現実的な目標設定と行動
「彼を忘れる」という大きな目標だけでなく、例えば「今日は彼からの連絡を気にしない」「今日は自分のために好きなことをする」といった、小さな、達成可能な目標を設定し、それをクリアしていくことで自信を深めることができます。
5・過去の経験の整理と受容
過去の虐待経験が現在の人間関係にどのように影響しているのかを理解し、その感情を整理していく作業が必要です。
これは痛みが伴うプロセスですが、専門家のサポートのもと、過去を受け入れることで、より健全な自己を築くことができます。
鈴木さんのエピソードは、共依存という深い心の傷と向き合うことの重要性を私たちに教えてくれます。
時間はかかるかもしれませんが、適切なサポートを受けながら、一歩ずつ前に進むことで、必ず自分自身を取り戻し、より穏やかで満たされた未来を築くことができるはずです。
この経験が、鈴木さんが自分らしく輝ける人生を歩むための、大きな転機となることを心から願っています。