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老いらくの恋 ~死がふたりを分かつまで~

 

相談者・女性62歳(離婚歴)
相談者の恋人・男性69歳(死別歴)

 

■人生最後の恋に燃えた二人

思い返すと私の人生はいつも誰かに尽くしてばかり

支配的だった夫は浮気が絶えない人で、収入のない専業主婦の私は夫に逆らう術がなかった。

気が付いたら夫は、私と子供を捨てて出て行ってしまった。

 

 

結婚前は、高圧的な親に気を遣って生きてきて。

結婚後は、夫に虐げられて我慢して生きてきて。

子供を育てるために、自分を犠牲にして生きてきて。

子供が結婚して、家を出てホッとしていたら、独りだったことに気が付いた

 

そんなときに好きになった彼。

私が勤めるスナックに来ている常連さん。

お互い良い年齢だけどそんなことは関係ない。

私も彼も、独り身だから自然と付き合い寄り添った。

お店で愛を育む関係からシフトして、次第に彼が私の自宅に来てくれるようになった。

 

彼は一人暮らしで外食ばかりだったから、私は彼のために食材を買いご飯を作った。

彼は悪いからと食材費プラスαのお金を、デートの度に渡してくれるようになった。

お店に通うより安いからと言っていたが、そんな優しさが私にとってはなにより嬉しい。

 

お互い60代後半の「老いらくの恋」だけど、普通の男女と同じようにセックスだってある。

私も彼もこれまで恋人がいなかったから、人の肌って心まで温かくなるからとても嬉しい。

やはり人はひとりでは生きていけないと思った。

 

 

■ひとつ手に入れると欲が出る

関係が深くなるにつれて人は欲が出るもので、最初は自宅でのデートだけでも嬉しかったのに。

次は外でご飯やお酒を一緒に楽しみたい。

その次は街で手を繋いで散策してみたい。

その次は泊まりがけの旅行をしてみたい。

その次は彼の自宅へ行ってみたいと、彼との関係を進展させたい欲求が沸いてくる。

 

彼を誘うと良い返事をしてくれたから、期待してあれこれ調べて計画を立てた。

計画を話して日程を決めようとすると、彼の返事はいつも煮え切らずハッキリしない

 

最初は彼も忙しいのだろうと思っていた。

私の自宅には足繁く来てくれるのに、何故それ以外のデートを避けるのだろう?

何度持ち掛けてもOKしないのは何故?

彼が何を考えているのか分からなくなった。

 

恋に夢中になっていて後回しになっていたが、考えると彼について知らないことがあり、それを聞いてみたい気持ちになってきた。

彼の住所も知らないし家族構成も知らない。

聞いているのは妻が他界したことだけ。

 

二人でいるとご飯を食べてセックスして帰る。

いつも同じルーティーンばかりだった。

その時に話すのは面白おかしい時事ネタくらい。

お互いの過去を知らなくても問題なかったから。

それが最近彼に疑問を感じることが多くなった

 

好きになって関係が近くなればなるほど、相手のことをもっともっと知りたくなる

もっと近くにいて欲しくなる。

若ければお互いの勢いに任せて、同棲したり結婚したりするのだろう

 

しかし老いらくの恋になるとちょっと違う

経験から色々と慎重になるのはもちろんのこと、それまでの人生で背負ったものがあるからだ。

背負うものによっては身動きが取れなかったり、諦めることもたくさん出てくるものだ。

 

無理なら無理だと言ってくれたらそれでいい。

無理を押してまでデートしたいわけではないから。

ただ無理ならばなぜ無理だと言わずに、誤魔化したりあいまいにしたりするのか?

それが分からなくて彼に不信感を感じてしまう

 

 

■彼に感じる多くの謎

相変わらずデートは私の自宅で楽しむだけ。

彼と旅行を楽しみたいと思っていたのに。

彼がハッキリしないから叶えられる気がしない。

話してもはぐらかされると悲しくなる。

そのうち希望を話すことも止めてしまった

 

ある日お店のお客さんから彼の話を聞いた。

違うスナックで見かけたら女性を連れていたと。

一瞬耳を疑ったが確かに会わないときは、LINEの返信が遅くなることがよくあったから、他の女性と会っていたから返信出来なかったんだ。

 

私だけと付き合ってくれていると思っていたのに。

それは思い違いだったのかと思うと、悔しさがあふれてきてしまった。

セックスも他の女性としていると思うと、居ても立っても居られなくなってしまった。

 

ずっと黙っていることが出来なくて、彼に聞いた話をしてみることにした。

すると彼は他の店に行ったことは認めた。

しかしその女性と付き合ってはいないし、セックスをしたこともないと訴えてきた。

 

それを聞いて疑う気持ちは残ったけれど。

疑っていつまでも嫌な気持ちを抱えたくないし、事情があって他の店へ行っただけなのだろう。

そう自分を納得させることにして、その話はそれ以上掘らずに収めることにした

 

その代わりと持ち掛けたのはズルいかもしれないが、自宅以外のところでデートしたいとお願いしてみた。

すると意外にも彼はすんなりOKしてくれた。

本当は彼もやましいところがあっただろう。

しかし大人はそれ以上突っ込まないのが礼儀だ。

 

それからしばらくして彼から誘いがあり、電車で数時間離れた街へ旅行することになった。

旅行なんて結婚していた時以来だったから、私は彼と一緒に旅行できるのがとても嬉しくて、彼がずっとスルーしていたことも忘れてしまった。

 

その旅行の際に彼の事情を初めて教えてもらった

彼の一人娘が彼の面倒を定期的に見に来るらしく、娘の手前もあって大っぴらにデート出来ないこと。

娘は亡くなった妻を今でも大事に思っていて、父親が恋愛をするのは受け入れないだろうこと。

 

そんな事情から誘いをはぐらかしていたのか、そう思ったら私は少し安心できた。

それならなぜ他の店で他の女性と一緒だったのか?

少し謎は残るけれど、彼とは近くなれた気がした

彼の譲歩に感謝して旅行を存分に楽しんだ。

 

 

■彼の病気

とある日、突然彼と連絡がつかなくなった。

いつもならすぐに返事が来て遊びに来るのに、一週間LINEが既読にならないし電話も出ない。

スマホの電源が入っていないと流れるアナウンス。

なにがあったの?三日経ち五日経ち不安しかない。

一週間が過ぎた頃、やっと彼から連絡があった。

 

連絡出来なくて申し訳なかったと彼。

聞くと、ある朝起きて動悸がして病院にかかったら、そのまま入院してください、と言われたとのこと。

狭心症だと言われて、検査の毎日だったそうだ。

面倒は、娘さんが見てくれたので、連絡出来なかったと。

 

連絡の仕方はあるはずなのにとは思ったが、それは心の中に飲み込んで、彼の無事を喜んだ。

退院したので、私の自宅に行きたいと言う。

年齢を重ねるとこんなこともあるのだと実感した。

退院してすぐ会いに来てくれる彼に感謝した。

 

その時ふと、私の脳裏をよぎった彼との別れ

興味を喪失して、別れを宣言するのではなく、今回みたいに突然の病気で会えなくなったら、事実を知らずにずっと不安を抱えたままになってしまうの?

どうしたのか分からないまま諦めるのは嫌だ。

 

彼にそのことを正直に話してみた。

「突然連絡がつかなくなり、別れる形になりたくない。事情を伝えられる共通の友人もいないのだから

、お互いの家族に連絡が取れる形にしてほしい」

「私は私の子供に連絡をしてもらって構わないけど、あなたのことは娘さんに連絡とってもいいかな?」

 

それを聞いた彼の顔が一気に曇った。

明らかに迷惑だと言わんばかりの表情になった。

ああやっぱり、近しい関係にはなれないんだ。

 

「君のことは家族に紹介出来ないんだよ」

娘さんがあなたの交際を許さないからなのね?

「実は…それには事情があって」

どんな事情で交際を秘密にしなければならないの?

「妻が死んだのは自分に原因があるんだ」

それには、これまで知らなかった彼の深い闇があったのです。

 

 

■それでもあなたが死ぬときはそばにいたい

彼によると、妻の死の原因は彼の浮気だったそう。

彼が浮気旅行をしていた時に、妻は自死したらしい。

だから彼の娘さんには、交際をオープンにできない。

人間は長く生きていれば色々あるものだけど、そんな過去があったとは全く寝耳に水だった。

 

浮気をしていた過去があると聞いて、先日目撃された女性との目撃談を思い出した。

その時彼は浮気じゃないと言っていたけれど、やはり浮気だったのでしょう?と聞くと、以前付き合っていた人だと告白された。

用事があって誘われてあの店に行ったそうだ。

 

その女性と破局したのも、近くなり過ぎたかららしい。

女性は彼との交際が進むと、再婚を求めてきたそう。

しかし再婚はできないと知ると、女性は別れを切り出してきた。

私が交際を進展させたいと話した時に、話をはぐらかしたのは別れたくなかったからなのだと

 

私と別れたくなくて言えないことがあった。

そう聞いて嬉しい気持ちと複雑な気持ちが交錯した。

私が彼に対して求めていることは、ひとつも解決しないし叶うことはないと分かったから。

このまま付き合っていて私は幸せなのだろうか…

 

一人で悩んでも答えが出なくて、ネットで知ったカウンセリングを受けてみた。

自分の考えが間違いなのかどうか分からないから、彼との交際が進展する方法を教えてほしくて、カウンセラーに気になることを聞いてみた。

彼が娘さんを気にする気持ちは分かるけれど、死ぬまで十字架を背負い孤独に生きるつもりなのか?

贖罪よりも自分の人生を生きてはいけないのか?

 

彼が好きだから世話をしたいし一緒に過ごしたい。

真剣ならば娘さんにハッキリ言えるはず。

私は交際を娘さんにも理解してもらいたいし、彼が病気になったときには世話をしてあげたい。

そしていつか死を迎えるときには、彼のそばで手を取って見送ってあげたい。

 

そう希望しても叶わない夢なのか?

希望してはいけないのか?

それとも叶わないなら別れたほうがいいのか?

この歳でこんなことで悩むとは思っていなかった。

悩み続けることが苦しいし辛くてたまらない…

 

 

■本当の愛とは「違いを受け入れること」

ここからはカウンセラー目線でお話しします。

女性は、愛情深く人に尽くして幸せを感じる人ですが、同時に尽くせる相手が傍にいないと、自分を失ってしまうタイプでもあるでしょう

 

考えていることが全て正しいと思い込むため、つい自分を相手に押し付けてしまいがちです。

自分の考えがどんなに正解でもベストでも、それが相手にとっての正解ではないのなら、押し付けられても迷惑でしかありません。

 

相手との違いを受け入れることこそが、相手への本当の愛と言えます。

良いところを愛せるのは簡単ですが、本当の愛とは無償の愛と呼ばれ、悪いところをありのまま愛せることです。

期待せず見返りのない愛こそが長続きの秘訣でしょう。

 

見返りとは自分の「安心や安全」のことを指します。

「自分の安心な居場所が作れてよかった」

「自分はひとりにならなくてよかった」

「一緒にいれば安心だからよかった」

「私が不安になる形にならなくてよかった」

 

相手が望まないことを押し付けてしまうのは、相手の為としながらも結局は自分のためなのです。

そこを間違えていては、窮屈になった相手はいつか逃げていくでしょう。

女性には、エピソードごと丁寧にお話しをし、徐々に考え方に幅を持って頂けるよう働きかけ、時間を掛けたカウンセリングを重ねている最中です。

 

先が長くない「老いらくの恋」ですから、一日でも早くお二人に幸せな形を見つけて頂けるよう、お話しを重ねながら日々お祈りしています…